東京高等裁判所 平成4年(う)292号 判決
被告人 松本箕吾
〔抄 録〕
原判決が挙示する現行犯人逮捕手続書、捜査報告書、当審証人新保栄治の供述をはじめとする関係各証拠によると、次のような事実が認められる。
<1> 被告人は、平成三年一〇月一〇日午後一〇時四〇分ころ普通乗用自動車を運転中、警察官により赤信号無視の容疑で検挙され、免許証を携帯しておらず、また顔付きから覚せい剤使用の疑いもあると判断されたことから、本田警察署に任意同行された。
<2> 同署において警察官らが被告人を取調室に同行した際、被告人の身体から小さなビニール袋(白色紙片様の物)が床に落下したところ、被告人がすばやくこれを拾い上げて口の中に入れたので、警察官らは吐き出すように説得すると共に、先端にゴムが付いている鉄製の特殊警棒を被告人の下顎に押し付けて嚥下を防止したが、被告人の歯茎付近に血がにじんでいたので、特殊警棒をはずし、「覚せい剤を飲んだら死ぬぞ」などと言って更に説得を続けた。しかし、被告人はビニール袋をガムのようにクチャクチャと何度も噛んだ上で嚥下してしまった。《中略》
前記認定の事実関係によれば、被告人が、警察官による発見、押収をおそれ、自らの意志により、警察官らの制止を排して、所持していた覚せい剤が入ったビニール袋を噛み砕き、覚せい剤が体内に吸収されるような態様で嚥下したことが明らかである。とすれば、被告人の右行為は、覚せい剤をその用法に従って消費したものというべきであり、覚せい剤取締法一九条にいう「使用」に該当する。このことは、右行為に出た動機が罪証隠滅にあったとしても、影響を受けるものではない。
(近藤 安廣 高麗)